ロービジョンとウェブ2014

2014.04.22

こんにちは。すっかり春ですね。

この春からWeb担当者、Webディレクター、デザイナー、フロントエンドエンジニアとしてウェブに携わることになった皆さん、はじめまして。そして、ようこそ。

ウェブの仕事を始めたばかりのあなたに、どうしてもお伝えしたいことがあります。

ウェブは、いろんな人が、いろんな端末で、いろんなブラウザで、いろんな使い方で使っています。

これからあなたが作るウェブコンテンツやサービスを、一人でも多くの人が、さまざまな場面で使って楽しんでもらえるようにするための考え方である「ウェブアクセシビリティ」。

中でも視覚障害の一つである「ロービジョン」と、ロービジョンの人がウェブを利用する上での不便、ウェブに携わるあなたに考えてほしいことなど、これから数回に分けてお届けしていきます。

「視覚障害者=全盲」ではない

皆さんは「ロービジョン」という言葉をご存知でしょうか?

ロービジョンとは、「メガネやコンタクトレンズで矯正しても十分な視力が得られない、あるいは視野が狭い・視野の一部が欠けているなどの理由によって生活や学習、仕事で不便を感じる状態」を指す言葉です。長い間「弱視」と呼ばれていましたが、医学的な弱視と区別するために「ロービジョン」という言葉を使っています。視覚障害の1種です。

視覚障害というと、全く目が見えない全盲を想像する方が多いかもしれませんが、ロービジョンの人は全く見えないわけではありません。個人差はありますが少し見えています。

実は、日本にはロービジョンの人がたくさんいます。「平成23年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果(厚生労働省)」(PDF)によると、視覚障害者31万人のうち、6割強にあたるおよそ19万人がロービジョンとされています(障害等級のうち全盲を表す1級以外の人の数を合計したものです。1級でロービジョンの方もいますので、一番少なく見積もって19万人ということになります)。また多少古いデータですが、日本眼科医会の調査結果(PDF)によると、「よい方の矯正視力が0.1以上0.5以下」の人は144万9,000人、「よい方の矯正視力が0.1以下」の人は18万8,000人となっています。

私もロービジョンです。現在の視力は、コンタクトレンズで矯正して右目が0.02。どんなに分厚いメガネをかけても、どんな最先端のコンタクトレンズを入れても視力はこれ以上上がりません。また、左目は光がわかる程度なので、ほとんど使っていません。

ロービジョン者の見え方

「ロービジョンって少しは見えてるんだよね。どんなふうに見えてるの?」

ロービジョンの人の見え方は実にさまざまです。まさに十人十色。また一人のロービジョン者でも、天気や体調、照明の明るさや位置などによっても見え方は変わってきます。でも単に「人によって違う」とだけ言われてもどうしていいかわからないと思いますので、代表的な見え方を4つご紹介します。

ぼやける
全体的にぼやっとして見える。物の輪郭や境界線がはっきりしない。私自身、このような見え方をしています。ちょっとした段差が見えなかったり、電柱の影を溝と見間違えたりします。街などで友人や芸能人がいても気づかずに素通りしてしまうことが多いです。
まぶしい・暗い
夏の晴れた日のようにまぶしいのが苦手、あるいは夜道やガード下のように暗いのが苦手という状態です。
視野狭窄(しやきょうさく)
物の見える範囲を視野といいます。視野狭窄はこの視野が狭い状態です。ストローや5円玉の穴からのぞいているような狭い範囲しか見えない人もいます。
中心暗点
視野のうち真ん中部分が見えない状態です。ドーナツの輪のような領域で物を見ていたり、もっとまだらな領域で見ている場合もあります。

視覚障害者のための補助具を取り扱っている株式会社アイベルさんのウェブサイトでは、ロービジョンとは?のページで、ロービジョンの人の見え方をシミュレーション写真で紹介していますので、ご参照ください。

ロービジョン者のウェブ利用環境

ロービジョンの人は、パソコンの設定を自分が見やすい文字の大きさや色に変更して使っています。あるいは「画面拡大ソフト」をインストールして使っている場合もあります。私自身はWindows の「拡大鏡」というソフト(最初からインストールされているもので、あなたのパソコンにも入っています)を使っています。

Windowsの設定を変更して使用する

Windowsには視覚や聴覚、手などに障害のある人の使用を補助する機能があります。例えば、

  • メニューバーの文字やショートカットアイコンを大きくする(ロービジョン向け)
  • Windowsからの注意や警告を促す音を、視覚的なものに置き換える(聴覚障害者向け)
  • マウスをキーボードで操作できるようにする(手が不自由でマウスが操作できない場合)

などをコントロールパネルから設定することができます。

Windows7のコントロールパネル

ロービジョンの場合、ディスプレイに表示されたアイコンや文字を見やすくするために、

  • 文字色と背景色のコントラストを向上させる「ハイコントラスト」
  • メニューバーの文字やショートカットアイコンを大きくする
  • マウスポインタやカーソルの大きさや色を見やすいように設定する
  • 重なったウィンドウの境界線をくっきり表示する

などの設定を行うことができます。

=

画面拡大ソフトを使う

上記のような設定を行っても十分見やすくならない場合、画面拡大ソフトを使用します。

拡大鏡

拡大鏡は、Windowsのユーザー補助機能の一つです。最初からインストールされているので、皆さんがお使いのパソコンにも入っています。このソフトはWindows7で大幅に改良されました。私も普段このソフトを使って画面を4倍に拡大し、さらに色を反転して黒い背景に白い文字で表示させています。下の写真は、上記の表示方法でYahoo!ウェブサイトのロゴを表示させたものです。横幅500ピクセル、高さ250ピクセルの領域ではロゴが半分も表示できません。

拡大鏡でYahoo!ロゴを表示している様子

ウェブ利用で不便を感じるシーン

私が普段、仕事や趣味でウェブを使う中で、「不便だな」と感じるシーンをご紹介していきます。

不十分なコントラスト

文字の色と背景色のコントラストが不十分な場合、文字を判読しづらくなります。そのようなウェブサイトを使うとき、私はブラウザで文字サイズを大きくしたり、CSSで指定された色を無視してページを表示させるようにしています。

文字色と背景色のコントラストについては、以下のコラムで紹介していますので、興味をお持ちの方はご覧ください。

複雑なマウス操作を要求されるコンテンツ

ドロップダウンメニューのようにマウスを乗せた時だけ表示されるものを操作するのは難しいです。また動画コンテンツで流れるテロップのように、動く文字を読むのはとても苦労します。

小さなアイコンだけのリンク

これはスマートフォンやタブレットが普及してきたことによるものだと思われますが、下の図のように、アイコンだけのリンクが増えています。先ほど「ロービジョンの人は自分が見やすいように文字の大きさや色を調整している」と書きましたが、たとえ画面を拡大していたとしても、このような小さなアイコンに気付いて、機能を理解し、クリックするのはなかなか難しいのです。これは高齢者についても同様のことが言えるのではないでしょうか。

さまざまな意味を持つアイコンたち

ロービジョン者へのアクセシビリティ

このように、ロービジョンの人は自分の見え方を熟知していて、それぞれの状態に応じた工夫をしてウェブを利用しています。これは紙にはできない、ウェブというメディアの大きな特徴の一つといえます。しかし、ウェブサイトを制作するときに文字の大きさや色を固定してしまうと、ユーザーは自分が見やすいようにカスタマイズできなくなってしまい、見づらいサイトを我慢して使わなくてはなりません。あるいはもっと見やすいほかのサイトへ移動してしまいます。

ロービジョンの人にも使いやすいウェブサイトを創るには、「ユーザーがそれぞれの状況に応じて行うカスタマイズを邪魔しない」ことが大切です。文字サイズをユーザーが変更できるようにする、JavaScriptをオフにしても同じ目的を達成できるようにして、JavaScriptのオン・オフをユーザーに任せるなど、ウェブサイトの表示のさせ方や使い方を、ユーザーにゆだねることが大切なのです。

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