NHK技研公開ツアーに行ってきました

2014.06.04

5月28日(水)、NHK技研公開に行ってきました。これはNHK放送技術研究所が最新の研究成果を広く知ってもらうことを目的に毎年行っているイベントです。この日は一般公開の前日でしたが、視覚・聴覚障害者がじっくり展示を見られるようにと月刊ニューメディアさんとNHK技研が企画・開催してくださったツアーに参加させていただきました。

1時間のツアーで見せていただいたのは以下の4つの展示でした。

  • 展示No.7「ディスプレイ一体型スピーカーによる8Kスーパーハイビジョン音響再生」
  • 展示No.15「立体や図を伝える触覚提示技術」
  • 展示No.30「番組音声を聞き取りやすくする技術」
  • 展示No.T1「さわれるテレビ」

その中から気になった3つをレポートします。

展示No.15「立体や図を伝える触覚提示技術」

このブースには大きく2つの展示がありました。

点図ディスプレイと音声を用いた2次元情報の伝達システム

まず点図ディスプレイを使ってテレビ画面に表示されているグラフや津波情報を触ってわかるようにするというものです。

津波情報を伝えるシステムでは、日本地図が固定表示されていて、津波注意報や津波警報が出ている箇所をピンの表示・非表示を繰り返すことで振動のようにして伝えていました。また音声でも、「北海道、津波注意報」のように伝えていました。注意報と警報の違いは振動の速さで区別できるようになっています。

点図ディスプレイで津波情報を伝えるシステムの写真

津波情報を読み取る手の写真

個人的にはこのシステムで、野球中継の中でピッチャーが投げたボールがどう変化しているかを知ることができるんじゃないかと思いました。また水泳や陸上などタイムを競う競技のゴールシーンをクローズアップして表示するとゴール前の緊張感を味わえて楽しそうだなと感じました。

またグラフを伝えるシステムでは指にセンサーのついたサックをはめて触ります。まずはグラフの全体像を伝えるためにサックがグラフの上を自動的に動いて誘導し、縦軸と横軸の説明や目盛り位置などを点字と音声で伝えてくれます。また上記の津波警報のシステムは指1本で触ることを前提に作られていましたが、こちらはセンサー付きのサックがあるため複数の指で触っても大丈夫です。

点図ディスプレイでグラフを伝えるシステムの写真

グラフを読み取る手の写真

指を誘導して全体像を伝える仕組みについては、人それぞれ知りたい場所や触るスピードが異なるため実際にはあまり利用されないだろうなと感じました。自分のペースでじっくり触りたいですからね。
ただ複数の指で触ってよいというのは2次元情報を理解するうえで大事なことだと思います。

そこにはない目玉焼きを触る技術

次に、実際にそこにはない目玉焼きを触る技術を体験しました。触覚ARともいえるでしょうか。超音波を使ってあらかじめ測定した目玉焼きの形や硬さを指に伝えて、あたかも目玉焼きを触っているような感覚を再現するというものです。測定に使用した目玉焼きを模したサンプルと、システムで再現された目玉焼きを触り比べてみました。硬さについてはもう少し改善の余地がありそうですが、形は十分把握でき、黄身と白身も区別できました。

さてこのシステムで何を触りたいかですが、僕の想像力が貧困なせいでどうしてもエッチなものしか思いつきませんでした。皆さんだったらどんなものを触りたいですか?

展示No.30「番組音声を聞き取りやすくする技術」

こちらはテレビの機能として、番組内の音声を聞き取りやすくする技術の紹介です。
まずは番組内の背景音だけを小さく抑えて、人の声などの前景音を聞き取りやすくするものでした。機能のオン・オフを切り替えて聴き比べてみましたが、たしかに背景音が抑えられて聞き取りやすくなっていました。どんな仕組みで背景音と前景音の区別を行っているのか質問したところ、「簡単に言うとステレオの真ん中から聞こえているのが前景音で端の方から聞こえてくるのが背景音と判断して区別しています」とのことでした。
またもう一つ、話者の声のスピードを15%遅らせる機能もありました。こちらも聞き比べてみましたがやはり聞き取りやすかったです。15%と聞いて最初は「え、それだけ?」って思ってしまいましたが、このくらいでもお年寄りにはかなり効果があるそうです。当然、遅くすれば時間が長くなり、映像とのタイムラグが大きくなるのでこのくらいがちょうどいいのかなと感じました。また、生放送の音声も遅らせることができるそうです。これにはびっくりしました。

展示No.T1「さわれるテレビ」

最後はさわれるテレビ。興味深いタイトルですよね。
3cm角くらいの小さなデバイスを持って映像を見ていると、映像内の音に合わせて手の中のデバイスが振動します。大きな音がすると大きく振動し、音が鳴り続けていれば振動も継続します。僕が見たのはサッカーの試合の映像でしたが、選手がシュートを打った瞬間、とても強くデバイスが震えました。またキッチンでポップコーンを作るシーンでは、コーンが跳ねる様子がなんとなくわかったような気がします。
これは、音を振動に変換して増幅することでさわってわかるようにしたものだそうです。手に持っていたデバイスはアンプのようなものだったんですね。

ロービジョンとテレビの研究を

ツアーの後、30分ほど質疑応答の時間を設けていただきました。そこで、「今日見せていただいた展示は触ったり聞いたりするものでしたが、ロービジョンの人がテレビを見やすくするような研究は何かありますか?」と質問をしてみました。すると、「データ放送の文字を大きくしたり色を見やすくするような技術はすでにあります。あとはメーカーがどこまでこういった技術を採用するかですね」と回答をいただきました。

もうすぐワールドカップが始まります。でも僕の視力ではボールや選手の動き、戦況などを目で追うことができないためサッカーを見て楽しむことはできません。たとえばボールだけを大きく表示したり、ボールの色だけを変えたりできたら楽しめるのかな、などと考えています。
また2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、熱戦の様子をアクセシブルな形で伝え、障害を持つ人も一緒に楽しめるようになっていたらうれしいですね。ドラマや映画の世界では副音声や音声解説などを使って、登場人物の表情やシーンの移り変わりなどを理解できるようになってきています。スポーツの世界でも取り組みが進むことを強く期待するとともに、当事者として何ができるか模索を続けていこう思います。

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