文字サイズ変更ボタンとブラウザズーム

2014.04.23

昨日に引き続き、ロービジョンの人のウェブ利用についてご紹介していきます。今日は、文字サイズ変更ボタンとブラウザズームについてです。

昨日もご紹介したとおり、私はロービジョンです。現在の視力は、右が0.02(コンタクト矯正済み)、左目は光がわかる程度です。普段パソコンを使うときには、Windowsの「拡大鏡」というソフトで画面全体を4倍に拡大して、さらに色を反転して利用しています。

ウェブサイトの文字や画像を拡大する機能としては、各ウェブサイトで実装されている「文字サイズ変更ボタン」と、ブラウザが持っているズーム機能がありますが、これからご紹介する理由で、これらの機能は1度も使ったことがありません。ロービジョンの友人・知人に聞いても、やはり同じ理由で使ったことがないという声がたくさん寄せられています。

いったいなぜ、これらの機能は使われないのでしょうか。

文字サイズ変更ボタン

そもそもどこにあるのかわからない

文字サイズ変更ボタン

ロービジョンの人は、ある特定のウェブサイトだけを拡大したいのではなく、パソコンを立ち上げてから終了するまでの間に表示されるすべての文字・画像を拡大したいのです。僕たちも皆さんと同じようにGoogle, Twitter, Facebook, Amazon,楽天、各種ニュースサイト、まとめサイトなどいろんなウェブサイトを利用します。あるサイトから別のサイトに移動するたびに、文字の大きさがデフォルトサイズに戻ってしまったら、そもそも文字サイズ変更ボタンを見つけることはできません。ボタンが画像で実装されていればなおさらです。

機能が不十分

記事の冒頭で、「拡大鏡を使って画面全体を4倍に拡大している」と書きましたが、400%の拡大率を実装している文字サイズ変更ボタンを僕は見たことがありません。1.25倍か1.5倍のサイトが多く、JIS X 8341-3:2010 で規定している200%を満たしているものにもなかなか出会えません。このような拡大率では、少なくとも僕には不十分です。

また、文字サイズ変更ボタンで拡大できるのはテキストだけです。図表やグラフなどの画像、さらにそれらの中に埋め込まれた文字は当然拡大されません。これでは、コンテンツを正確に理解するのは難しいでしょう。グローバルナビゲーションが画像で実装されているような場合、サイト内を移動できないことになってしまいます。

最近では多くのサイトで文字サイズ変更ボタンを見かけます。「この機能が実装されているサイトは障害者や高齢者に配慮があるサイトで、実装されていないサイトは配慮が足りないのでは?」というように、サイトを評価する基準の1つになっているようで強い懸念を感じます。

文字サイズ変更ボタンは本当に必要なのか、どうしてその機能を実装するのか、必要だとしたらどんな機能をどんなデザインで実現したらいいのかといったことが十分検討されていないと思うのです。

「いやー、クライアントからの仕様書に入っててマストなんだよね」

「住民や地元の議員から「隣の市のサイトにはあるのに、うちのサイトにはどうしてこのボタンがないんだ。もっと配慮しなさい」って言われて…」

こんな声も聞こえてきそうですね。そんなときはまずこの記事を上司やクライアントに見せてください。

文字サイズ変更ボタンはページの上部に実装されることが多いですよね。大切なファーストビューを、そしてこの機能を実装するためのコストをアクセシビリティの本質的な向上のために使ってほしいと強く思います。

ブラウザのズーム機能

横スクロールという致命的な問題

一方、ブラウザが持っているズーム機能はテキストだけでなく画像もすべて拡大してくれます。拡大率もIEでは最大400%、FirefoxやChromeもかなりの倍率で拡大してくれます。

ですが、この機能で拡大していくと多くのブラウザでは横スクロールが出てしまいます。拡大しているのだから視野が狭くなり、横スクロールがでてしまうのは仕方のないことなのですが、ロービジョンの人にとっては致命的です。

ブラウザズームでこのサイトを表示したスクリーンショット

右の図は、昨日の記事をブラウザズームで表示したときのスクリーンショットです。記事中のある行を読んでいて、画面の端にたどりついたので一度目を離して横スクロールします。すると、さっきまで読んでいた行を探すのがとても大変で、行を読み飛ばしたり、すでに読んだところをもう一度読んでしまったりします。それでもなんとか行末まで読んでまた目を離してスクロールし、行頭へ戻ってくると、またどこから読むのかわからず迷う…。

これを延々と続けなければならないのです。

ブラウザの文字拡大・縮小機能は使っている

一方で、ブラウザズームよりも以前から実装されている文字サイズの拡大・縮小機能。こちらは時々使います。拡大鏡で拡大しているとはいえ、ウェブサイトによってはデフォルトの文字サイズが小さくて読みづらいことがあります。そんなときに拡大鏡の倍率を上げてしまうとマウス操作が難しくなるので、ブラウザ側で文字を拡大するのです。ところが、文字サイズをpxで指定しているサイトでは、この機能が使えなくなってしまいます。

「ブラウザズームで拡大できるから、文字サイズはpxで指定してもいいよね。」という空気がウェブデザイン業界にはあるようですが、それは困ります。ブラウザの文字サイズ拡大・縮小機能を使えるようにemやex、%などで指定していただきたいです。

ネットの向こうには必ず人がいる

文字サイズ変更ボタンにしても、文字サイズにpxを使う空気も、ユーザーの声を聴いて、不便に耳を傾けていたら生まれなかったものでしょう。この2つ以外にも、先入観や思い込み、なんとなくの空気で実装しているけどあまり使われていない機能があるかもしれません。

パソコンやネットの向こうには必ず人がいることを意識して、ユーザーと向き合い、確実に、便利に、そして楽しく使えるようなウェブサイトやサービスを創ってほしいと思います。

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